育休から復帰して時短勤務にすると、給料はおおむね所定労働時間の比率で下がります。8時間を6時間にすれば給料は4分の3、6.4時間なら8割です。
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ここで多くの人が「手取りも8割になる」と見積もります。実際にはそうなりません。最初の3か月は8割より低く、4か月目以降は8割より高くなります。2025年4月に新設された育児時短就業給付金が賃金の10%を上乗せする一方で、社会保険料と住民税は下がった給料にすぐには連動しないためです。
この記事では、時短にした月から手取りがどう動くかを月給30万円の例で並べ、10%の給付が付かない条件と、会社に出してもらう2つの届を、給与計算と社会保険の手続きを扱ってきた側から整理します。2026年9月時点の制度で書いています。
育児時短就業給付金は、各月の賃金の10%
育児時短就業給付金は雇用保険の給付で、2歳未満の子を養育するために所定労働時間を短縮して働く人に、その月に支払われた賃金の10%が支給されます。育休中の育児休業給付金と同じく雇用保険から出るため、所得税・住民税はかかりません。
対象になるのは、雇用保険の被保険者で、育児休業給付を受けた育休から引き続いて時短を始めた人か、時短を始める前の2年間に被保険者期間が12か月以上ある人です。パートや契約社員でも、雇用保険に入っていれば対象になります。
申請は原則として会社がハローワークに行います。本人が直接申請する道もありますが、時短前の賃金を証明する書類は会社側にあるため、実務上は会社経由になります。
制度の一次情報は厚生労働省の育児休業等給付のページにまとまっています。
手取りが「8割」にならない3つの時差
給料が8割になっても手取りが8割にならないのは、給料から引かれるものと足されるものが、それぞれ別の時期に動くからです。
| 項目 | 時短にした月にどうなるか | 下がった給料に合うのはいつか |
|---|---|---|
| 社会保険料(健康保険・厚生年金) | 時短前の標準報酬月額のまま引かれる | 時短4か月目から(復帰後の3か月平均で改定) |
| 住民税 | 前年の所得で決まった額がそのまま引かれる | 翌年6月から |
| 所得税 | その月の給料に応じてすぐ下がる | 当月 |
| 育児時短就業給付金 | 給料の10%。ただし当月には入らない | 会社が申請してから、支給決定後にまとめて振込 |
社会保険料が3か月遅れる理由は、標準報酬月額の決め方にあります。育休から復帰して給料が下がった場合、復帰後3か月の給料の平均で新しい標準報酬月額を決め、4か月目から保険料が変わります。この3か月は、時短前の高い標準報酬で保険料が引かれ続けます。
住民税は前年の1〜12月の所得で決まり、6月から翌年5月まで12回に分けて引かれます。時短を始めた年の住民税は、時短前にフルタイムで働いていた前年の所得で計算されたものです。下がった給料が住民税に反映されるのは翌年6月からで、しかも翌年の額には時短前の月が混ざります。
給付金は逆方向の時差です。その月の賃金が確定してから会社が申請し、ハローワークが支給を決めてから振り込まれるため、時短を始めた月の生活費には間に合いません。
月給30万円が24万円になった場合の手取り
時短前の月給30万円、時短で8割の24万円になった人の手取りを、時期ごとに並べます。社会保険料は本人負担をおおむね給料の15%、扶養なし、賞与なしで概算し、千円未満は丸めています。金額は会社の健康保険組合や住んでいる自治体で前後します。
| 時期 | 給料 | 社会保険料 | 税金 | 給付金 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 時短前 | 30.0万円 | 4.5万円 | 約2.0万円 | — | 約23.5万円 |
| 時短1〜3か月目 | 24.0万円 | 4.5万円(旧額) | 約1.7万円 | 2.4万円(後日) | 約17.8万円+後日2.4万円 |
| 時短4か月目〜 | 24.0万円 | 3.6万円 | 約1.8万円 | 2.4万円 | 約21.0万円 |
| 翌年6月〜(住民税改定後) | 24.0万円 | 3.6万円 | 約1.5万円 | 2.4万円 | 約21.3万円 |
給料は時短前の80%ですが、4か月目以降の手取りは約90%です。10%の給付が丸ごと乗り、社会保険料と所得税が下がった給料に合ってくるためです。
一方で最初の3か月は、口座に入る金額だけで見ると約76%まで落ちます。給付金は後から入るとはいえ、月の支払いは待ってくれません。時短の1〜3か月目が、家計として最も苦しい期間になります。復帰前にこの3か月分の差額、上の例なら月6万円弱、3か月で約17万円を手元に置いておけるかが分かれ目です。
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手取りの谷が3か月で終わるのは、社会保険料の改定が4か月目に行われることが前提です。時短の幅が小さい場合は、会社が出す届の有無で改定の時期が変わります。あとの節で書きます。
10%が付かない、または減る条件
給付は「時短していれば必ず10%」ではありません。次の場合は減るか、支給されません。
- 時短後の賃金が時短前の90%を超えている。賃金と給付の合計が時短前の賃金を超えないよう支給率が下がり、100%以上なら支給されない。8時間を7.5時間にする時短なら賃金は約94%で、給付は最大でも6%程度に減る
- その月の給付額が最低限度額(毎年8月に改定)を下回る
- 時短前の賃金月額が上限額を超えている。上限額を超えた分は計算に入らない
- 子が2歳になった。2歳の誕生日の前日までが対象
- 雇用保険に入っていない、または時短前の被保険者期間が12か月に満たない
- 会社が申請していない。給付は申請しなければ支給されず、申請期限もある
最初の条件は見落とされやすい点です。時短の幅が小さいほど給料の減りは少ないですが、そのぶん給付も付かないため、「1時間だけ短くして10%もらう」という形にはなりません。制度は、賃金の減り幅の一部を埋めるものとして設計されています。
会社に出してもらう2つの届
時短にしたときの手取りと将来の年金を守るために、会社が年金事務所に出す届が2つあります。どちらも本人が書いて会社に渡す様式で、出ていなくても本人に通知は来ません。
育児休業等終了時報酬月額変更届
育休から復帰したあとの3か月の給料で標準報酬月額を決め直し、4か月目から社会保険料を下げる届です。通常の見直し(随時改定)は2等級以上の差が条件ですが、この届は1等級の差でも改定されます。月給30万円が24万円になるような下がり幅なら随時改定でも4か月目に下がりますが、時短の幅が小さく1等級しか動かない場合は、この届が出ていないと次の定時決定まで時短前の保険料が続きます。定時決定は毎年9月分からの適用なので、復帰の時期によっては半年以上の差になります。
養育期間標準報酬月額特例申出書
標準報酬月額が下がると、将来の年金額も下がります。この届を出すと、3歳未満の子を養育している間は、保険料は下がった額で払いながら、年金額の計算では下がる前の標準報酬月額が使われます。保険料と年金額を切り離す仕組みで、時短にした人にとっては出さない理由がありません。
2つの届は目的が逆です。前者は保険料を下げる届、後者は年金を下げない届で、両方出して初めて「保険料は下がり、年金は下がらない」状態になります。復帰後の給与明細で保険料が4か月目に下がっているか、そして年金事務所からの通知に養育特例の記載があるかが、届が出ているかの確認材料になります。
保育料と配偶者控除には、給付金は入らない
給付金は非課税なので、市町村民税の所得割額には含まれません。保育料の算定にも、配偶者控除の判定にも、給付金の分は乗りません。時短で下がった給料だけが、翌年の住民税と、その翌年9月からの保育料に反映されます。
ただし保育料に効くのは、住民税と同じ時差を経たあとです。時短にした年の所得が翌年6月の住民税に反映され、その所得割額が翌年9月分からの保育料に使われます。それまでは時短前の給料で決まった保育料が続きます。年度の途中で保育料が動く経路が限られていることは、収入が下がっても保育料はすぐ下がらない理由の記事で書きました。
つまり時短の1年目は、給料は下がり、住民税と保育料は前年基準のまま、という期間です。この期間を10%の給付が部分的に埋めています。給付が2歳の誕生日で終わるのに対し、保育料が下がった所得に追いつくのは時短を始めた翌年の9月からなので、給付の終わりと保育料の反映が入れ替わる形になります。
時短で手取りが減るのとは別に、2026年10月からは社会保険の加入で手取りが減る人も出ます。引かれ始めるのが何月の給与からかは10月加入なら11月の給料で引かれる仕組みで確認できます。
まとめ
- 育児時短就業給付金は、2歳未満の子を養育する雇用保険被保険者に、各月の賃金の10%を非課税で支給する
- 社会保険料は4か月目まで、住民税は翌年6月まで、下がった給料に連動しない
- 月給30万円が24万円になる例では、1〜3か月目の手取りは約76%、4か月目以降は約90%
- 時短後の賃金が時短前の90%を超えると給付は減り、100%以上なら付かない
- 保険料を下げる届と年金を守る届は別で、両方出して初めて「保険料は下がり、年金は下がらない」になる
- 給付金は所得割に入らないため、保育料と配偶者控除には影響しない
よくある質問
Q. 育児時短就業給付金は、時短にすれば自動的にもらえますか
自動では支給されません。会社がハローワークに申請して初めて支給されます。育休の給付と同じく会社経由の手続きなので、復帰の時点で会社に申請の予定を確認しておくと、支給までの空白が短くなります。
Q. 時短にしたのに、社会保険料が下がりません
復帰後の3か月の給料で標準報酬月額を決め直す仕組みがあり、下がり幅が2等級以上なら随時改定で、1等級でも育児休業等終了時報酬月額変更届が出ていれば、4か月目から下がります。どちらにも当たらなければ、次の定時決定まで時短前の保険料が続きます。給与明細の健康保険料と厚生年金保険料が4か月目に変わっているかで判断できます。
Q. 時短の給付金は、翌年の住民税や保育料に影響しますか
影響しません。雇用保険の給付は非課税で、市町村民税の所得割額に含まれないためです。翌年の住民税と、その翌年9月からの保育料に反映されるのは、時短で下がった給料の分だけです。
Q. 1時間だけ時短にした場合も10%もらえますか
時短後の賃金が時短前の90%を超えていると、賃金と給付の合計が時短前の賃金を超えないように支給率が下がり、100%以上なら支給されません。8時間を7.5時間にする時短なら賃金は約94%なので、給付は10%ではなく最大でも6%程度になります。
Q. 夫婦のどちらが時短にするかで、給付は変わりますか
給付は本人の賃金の10%なので、賃金が高い側が時短にするほうが給付額は大きくなります。ただし減る給料も大きくなるため、世帯の手取りとしては、時短にする側の賃金の減り幅から給付を引いた差額で比べることになります。

